日枝の山道1(日吉大社と山王祭)~白洲正子「近江山河抄」の舞台を歩く(14)

山王祭・花渡り式-1
山王祭は、「山王さん」の総本宮、日吉大社で毎年4月12日~15日に行なわれる神事だ。

男女の神様が結婚して、子どもが産まれるというストーリーで、山王祭は行なわれる。
期間が長い上、神事がたくさんあるので、今回は「花渡り式」を撮影することにした。
花渡り式は神事の合間に行なわれる華やかな行列で、13日の午後1時から行なわれる。

山王祭・花渡り式-2
花渡り式は、御子神のご出産を祝うための行列と伝えられている。
武者姿の稚児たちが、造花で彩られた大指物を引いて参道を練り歩く。

稚児役の子供さんのお父さんが、正装して隣を歩く。その周りを若衆がついていく。
何組もの稚児と大指物が、互いの距離をあけながら、ゆっくりと参道を登っていく。

山王祭・花渡り式-3
満開の桜と、花渡り式の造花。華やかで見ていて楽しい。

日吉大社参道の鳥居と常夜灯、満開の枝垂桜
日吉大社参道の鳥居と常夜灯。花渡り式を見る人達。満開の枝垂桜が優しい色を添える。

山王祭・花渡り式-4
行列は、参道の最初と最後で、神体山(八王子山)に一礼して進む。

日吉(ひよし)大社は、比叡山延暦寺の門前町・坂本にあって、延暦寺を守る位置づけにある。神体山である八王子山には、比叡山の神が降臨するとされる。

日吉大社の守る延暦寺もまた近江(滋賀)の地にあって、京の都を守護する位置づけにある。「近江は日本の楽屋裏」と白洲さんが書いた言葉を思い出す。

日吉大社境内、奥宮への登り口
日吉大社境内から神体山に登ることができる。山頂には奥宮(牛尾宮・三宮宮)がある。

ここ(東本宮そば)から奥宮までの距離は850m、高低差は180mあって、歩くと30分かかる。
12日夜の「午(うま)の神事」では、この坂を二基の神輿が勢いよく駆け下りる。
このとき二基の神輿には、牛尾宮と三宮宮の神様が乗っている。
牛尾宮に祀られている大山咋神(おおやまぐいのかみ)、三宮宮の鴨玉依姫神である。
山王祭の「午の神事」は、この男女の神様が結婚するストーリーだ。

日吉大社拝殿に置かれた三社の神輿(4月13日のみ)
拝殿(国宝)には、この日だけ三社の神輿が渡る。
日吉大社には七社の神輿があって、どれも重要文化財になっている。金銅装の見事な神輿だ。

ほかの四社の神輿は、13日夜に宵宮場で「宵宮落とし神事」を行なう。四社の神輿を激しくゆさぶり、鴨玉依姫神の陣痛の苦しみを表すといわれる。若宮の誕生だ。

14日の午後には、七社の神輿が参道をくだり、台船に載せられて琵琶湖の上を巡行する。唐崎神社沖で粟津の御供献上祭を行い、神輿は再び陸に上げられて坂本の町に戻る。

15日には祭礼が無事終了した事を感謝する「酉(とり)の神事」等が行なわれ、山王祭は終わる。

日吉大社の山王鳥居
山王の「山」という文字を表した山王鳥居(重要文化財)。西本宮の参道を登った先にある。

山王鳥居の特徴は、明神鳥居の上部に三角形の破風(屋根)が乗った形にある。
独特の鳥居で、仏教の胎臓界・金剛界と神道の合一を表しているとされる。

日吉大社東本宮本殿
東本宮本殿(国宝)。44年ぶりに修復工事が完了し、2013年3月24日に一般公開された。

東本宮本殿は1595年(安土桃山時代)の建立で、大山咋神が祀られている。
「日吉(ひえ)造り」と呼ばれる独特の様式で、屋根の前部と左右にひさしを伸ばす。

日吉大社東本宮拝殿から見た楼門と樹下神社
東本宮拝殿から、楼門(写真中央)と樹下神社(写真右)を見た風景。
樹下神社には、鴨玉依姫神(大山咋神の妻である神様)が祀られている。

亀井霊水
樹下神社のそばにあるのが「亀井霊水」。

亀井霊水説明

「亀井」と名づける神泉があって、そこから流れ出る水がめぐりめぐって大宮川に合し、末は畑をうるおして行くさまは、さながら古代信仰の絵文様を見る思いがする。(近江山河抄

自然の風景の中に神を見出し、祀る。それが素朴な形で信仰として存在している。
日吉大社の末社には竈の神様を祀ったものもあって、その世界観が伝わってくる。
美しい自然の中にある坂本という町自体が、ひとつの大きな舞台装置なのかもしれない。

日吉大社宇佐宮本殿へ続く参道
宇佐宮本殿(重要文化財)へ続く参道。朱色の常夜灯と新緑の黄緑が、目に鮮やかだ。

花渡り式を終えた参加者が日吉大社の鳥居をくぐり帰っていく
花渡り式を終えた参加者が、造花を手に、鳥居をくぐり帰っていく。桜が満開だった。

日吉大社の鳥居のそばにある石仏
日吉大社の鳥居のそばにある石仏。背後の階段(常夜灯脇)は比叡山横川に通じている。

坂本の里はひとつひとつの風景に細やかさがあって、何度歩いても心に染みてくるものがある。
日吉大社周辺には素晴らしい場所がたくさんあるが、次回は隠れた名所をご紹介したい。
比叡山を含めた坂本周辺は、季節を変えて、何回かに分けてご紹介できればと思う。

 

日枝の山道2(慈眼堂の石仏と日吉東照宮)へ続きます。